幹細胞治療の最近の成果
- 木綿 山崎
- 9月22日
- 読了時間: 3分

日本における幹細胞治療は、ノーベル賞を受賞された山中伸弥教授によって開発された「iPS細胞」による研究が先行しています。
体のどんな細胞にもなれる魔法のような能力を持つこの細胞は、これまで治療法がなかった難病の克服に大きな希望をもたらしています。
今回は、2024年から2025年にかけて発表された、iPS細胞を用いた最新の治験の事例を、ご紹介します。
iPS細胞とは?
iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、私たちの皮膚や血液といった普通の細胞に、いくつかの遺伝子を導入することで、まるで受精卵のように体のあらゆる細胞に変化できる能力を持たせたものです。この「万能性」を利用して、病気で失われた細胞や組織を新しく作り出し、体に戻すことで、病気の根本的な治療を目指すのが再生医療です。
パーキンソン病に対する治療
パーキンソン病は、脳内でドーパミンという神経伝達物質を作る神経細胞が失われることで発症する病気です。手足の震えや体の動きが鈍くなるなどの症状が現れます。
2024年に、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が中心となり、iPS細胞から作ったドーパミン神経細胞を、パーキンソン病の患者さんの脳に移植する臨床研究の進捗が発表されました。
これまでの治験において安全性が確認されており、さらなる大規模な治験が計画・開始されています。
移植された細胞が脳内で機能し、症状の改善が見られるかどうかが注目されています。
脊髄損傷に対する治験
脊髄損傷は、事故などで脊髄が傷つき、手足が麻痺するなど重い後遺症が残る疾患です。
2025年には、慶應義塾大学医学部が中心となり、iPS細胞から作った神経のもととなる細胞を脊髄損傷の患者さんに移植する治験が開始されました。
これまでの治療法はリハビリが中心でしたが、この治験では、失われた神経のネットワークを再構築し、機能回復を目指します。
心不全に対する治療
心不全は、心臓の機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなる病気です。
2024年には、大阪大学大学院医学系研究科が中心となり、iPS細胞から作った心臓の筋肉細胞をシート状にしたものを、重症の心不全患者さんの心臓に貼り付ける治験が発表されました。
これは、機能不全に陥った心臓の筋肉を「パッチ」で補強し、心臓の働きを回復させることを目的としています。
これまでの動物実験では高い効果が確認されており、人間の体でも同様の効果が得られるかが期待されています。
期待と課題
iPS細胞を用いた治療は、これらの事例からもわかるように、着実に実用化に向かって進んでいます。しかし、まだ課題も残されています。
安全性: 移植した細胞が腫瘍化しないか、拒絶反応が起きないかなど、長期的な安全性の確認が必要です。
コストと供給: iPS細胞から目的の細胞を大量かつ安定的に作製するには、高度な技術とコストがかかります。
とはいえ、これらの治験の進展は、これまで治療を諦めていた多くの患者さんにとって、大きな希望です。研究者たちの努力が、未来の医療を現実のものにしようとしています。



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